夢日記

 映画のように鮮やかで、滑らかな映像の夢だった。場所は屋内で時間は夜だったけれども、青と緑が白い背景に映えて綺麗だった。たとえば、夜の営業が終わった学食のようにひろい食堂で、バイトの中国人の女学生がプラスチックの食器を洗っているシーン。白い蛍光灯で全体が照らされていて、壁に描かれた緑のライン、カウンター越しで洗台にむいてる姿勢の彼女の顔は影になっていてすこし青い、食堂ははがらんとしていて、彼女だけが動きをもっている。


 私は妹と食事を終えたあとだった。そこから二人でトイレに行くのだけれども、トイレが美しかった。全体に2cm四方のタイルが敷き詰められていた。色は三種類、白とあわい青、濃い青。各個室のドアだけ木製でノブが金色だった。私たちはすごく仲がいいらしく、トイレの個室で別れた以外はいつも隣り合っていて、小さな声でクスクス話している。もしくはほとんどテレパシーみたいにしている。


 トイレを出て右に曲がり、廊下で二人の男の子とすれ違って、1人は短髪で細面、柄のニットベストを重ねててジーンズ、もう1人はパーマをかけてウェリントンの黒いメガネにシンプルなシャツとリュック。妹はニットの方がなんとなく好きみたい、じゃぁ彼らと友達になるなら、私はパーマの男の子の方と話そう、などとうっすら思っている。私たちは双子のようだったので、無意識のうちに好意がかぶって問題が生じないように譲り合っているらしかった。男の子について絶対に譲れないと取り合うほどのことなんてなかったと思う。そもそも、私と妹は別々の場所で見つけた別々の男の子たちと付き合ったりしてきたから、良くわからないけれど。彼といる時の妹はとてもしあわせそうだったし、それをみて私もしあわせに思っていた。相談に乗るときも純粋にうまくいってほしいと願っていた。その一方で、きっと私たち姉妹の関係が男の子との関係とはちがって揺るがないような、そんな感覚をたぶんお互いに持っていた。そうして、お互いにそのことを口にはしないが同じように感じているような気がしている。


 私たちは二階の窓から夜の空を見た。窓といっても、枠がなくて黒板のように床から一定の高さからずーっと横長でガラス張りになっている。廊下はすこし灯りが落とし気味でオレンジ。外にはオリオン座がのぼってきていた。今日の星はなんて明るいのだろう。シーイングがとても良くて、そうか、日中雨が降ったから。空気も冷えてきたし。揺れない光は真っすぐで、おもちゃのようだった。赤い色や黄色や白、星の色がハッキリと漆黒の空に並んでいたからなおのこと。妹の顔は全然見なかったけれども、隣にいるのをきちんと感じていた。なんとなく、星の色とブローチのことを考えているような気がした。何も言わずにひとしきり空を見てから、お互い顔を見合わせて、じゃぁね、とそれぞれ別行動に移った。


 私はくまちゃんと合流した。どうやらこの地域が主催した芸術祭が開催中らしい、世界中のアーティストが出品している。それをみるというのが、今夜のデートらしかった。映像の展示を見るために映画館のような椅子にかける、少し沈む、柔らかい。ふと、隣に座っていた人が目にはいって、それはなんと先生だった。くまちゃんは私と同い年、先生は10以上歳上だった。右に座るくまちゃんと、左に座る先生。その間に座った私は何を隠す気も毛頭なかったので悪びれず、シンプルに二人を紹介した。男同士は何を思ったのだろう?私はすこし腰を浮かせてもう一度掛け直した、ふたたび柔らかく少し沈んで今度は正しくおさまった。くまちゃんは不安になったのか急に子どもみたいに抱きついて、私は先生を見た、先生は目を細めて少し首をななめにして微笑むように私を見た。先生と私はよくデートをしていて、そのたびに私は言いたい放題意見したり、考えをきいてもらっていた。先生は博識な人なので、私の言葉など、こどものおしゃべりみたいに響いたでしょうけれども、いつも静かに聴いてくれていて、時たま、ひとことふたこと、コメントしてくれるのだった。彼は知を愛していて自身の意見と言うものはほとんど言わない、朗らかで寡黙な人だった。場内が暗くなって上映が始まろうとしたので、三人ともスクリーンを向いた。スクリーンだけを見ていたし、作品に集中した。内容は忘れてしまったけれども、外国の子どもふたりがメインで出ていた気がする。


 作品が終わると二人は会話をしていた。たぶん作品についてだと思うけれども、私は少し離れて二人を見ているから内容はわからない。くまちゃんは音楽や映画に詳しくて、先生もそれらが好きだしくわしかった。私は二人が会話をしている姿をみてなぜかほっとしている。彼らは決して自ら沢山話すタイプではないと思っていたけれども、自然に絶えず話し合っていた。私は映画や音楽について、二人ほどの知識はないけれども好きだった。そうして、二人を好きだった。