16 祈り

いつから私の眼球は、こんなに光を取り込むようになった?
世界が白んですべてが眩しい。刺さずに滑り込むような光。
陽があたたかな冬の日は夜の寒さとうってかわって、雪の冷気が心地よい。
そんな雪道を歩き出した。



最初にすれ違ったのは親子。女の子とお母さんだ。
女の子は帽子をかぶっている、紺色の毛糸でどうやら手編みらしい。
お母さんは若くて髪はショートカット。色白で足元を見る伏し目が綺麗。
パンの話をしている、パンを買いに行くのだろうか。



通り過ぎて前に見えたのは男の子とお父さん。
進行方向は私と同じ、ふたりの背中を眺めてる。
男の子が指を指して右をみた。
それに続くお父さん、平行移動したふたりの横顔は相似だね。
あ。鳥が低く飛んで風の形をあらわしながら上昇した。
私も目を奪われ右を向いていた、前に向き直ると、ふたりも前を向いていた。



ふたりは手をしっかり握っている。
そう言えば、最初の親子もそうだった。
雪で転ばないようにか、それともふたりが離れないようにか。



私も母や父と繋いだ手の温かさを思い出す。
できるだけ、そばに居てほしいと思う。
今日多くの街で地震があった。遠くの街の人が被害に遭っている。
私たちと住む場所以外はなにも変わらない、普通の人たち。



どうか、大切な人たちと一緒に居られますように。
離れてしまって再会を待つ人も、いま一緒に居る人も。



鳥はどこかへ行ってしまったが、空はやっぱりまぶしかった。