頭痛/散歩

モーメンさんは、柔らかなで毛で覆われた顔を両手で挟んでじっとしていました。頭が痛くてうなだれているのです。あたまの中の虫の活動に変化が起きたことが原因でした。虫の名前はゆらり虫で普段から体の中にすんでいますが、餌によって活動に変化があらわれるのです。


誰かや過去を自分の思いどおりにしようとイライラすると、頭の周りに霧が出来てきます。そしてその霧は雲になり、もっと集まると粒に成って降り落ちます。その粒をゆらり虫が食べると、動きに変化があらわれます。ゆらり虫は普段ゆらゆらと動きますが、真っすぐしかすすめなくなるのです。ゆらり虫の真っすぐな進行が、頭痛の原因なるのです。けれども、虫はほとんど透明なのでまだ発見されていませんでした。


モーメンさんはくすりを飲みました。すると頭痛は止まりました!くすりは虫を痺れさせて動きを止めるのです。けれども、くすりが切れるとまた頭が痛くなりました。虫が動き出したのです。


もう嫌だ!モーメンさんが家を飛び出すと、ちょうど散歩中だったリット先生に会いました。リット先生はモーメンさんの青く縮んだ顔を見てびっくりです。


「こんにちは、モーメンさん。どうなさったのですか?」
「こんにちは、リット先生、頭が痛いのです」


そこでリット先生はモーメンさんを散歩に誘いました。モーメンさんはどうして?と思いましたがご一緒することにしました。
「ご覧になってください、赤い花が揺れていますよ」「そうですね」
「ご覧になってください、珍しい蝶が来ていますよ」「そうですね」


あまりに何度もリット先生が話しかけてくれるので、モーメンさんは意識を取り戻しました。全然まわりを自分の目で見ていなかったことにも気がつきました。花はやさしく、蝶はひらひら、風は柔らかく吹いていました。木漏れ日や木の香りが散歩道にありました。


散歩を終えて、家に着くとモーメンさんの頭痛は治っていましたが、もう別のことを考え始めていたので頭痛が治ったことには気がつきませんでした。